顧客の高齢化への備えは万全ですか?
全世界のどの企業にとっても、高齢化する顧客の重要性は日に日に高まっています。これには明快な理由が3つあります。
- 世界中で高齢者人口が増加の一途をたどっている。
- 高齢者の多くは購買力が高い。
- サービスや操作性の点で要求が厳しい。
世界中の企業が、高齢者層のこうしたニーズに応えるため、製品とサービスの設計を見直そうとしています。世界的に高齢化する顧客層により良いサービスを提供するには、何が必要なのでしょう。
高齢化先進国、日本
人口のほぼ25%を65歳以上の高齢者が占める日本は、60歳以上の人口比率が世界最高という典型的な高齢化社会です。小売業界にとって重要なビジネスチャンスと目される高齢者市場。日本企業は十分な時間をかけ、その対策を練ってきました。ファミリーマートやセブン-イレブンなどの小売チェーンでは、50歳以上の顧客層を対象として店舗の設計を見直しています。店舗では落ち着いた配色や木目調のフローリングを使う、通路を広げる、パッケージを小さくする、介護サービスの相談窓口を設けるといった対応がとられています。
年配客が多い店舗では、売れ筋の商品全般で売上額が増えています。たとえばワインの平均購入額は、他の店舗が500~1,000円というなかで、3,000円に達しました。
対象顧客層の絞り込みが成功するかどうかは市場しだい
NTTドコモは、5年ほど前に高齢者専用のスマートフォンを発売しました。ディスプレイに表示される文字やアイコンを大きくし、メールの送受信や写真撮影も簡単にしたものです。
高齢者専用の製品を作るという発想は、日本では広く受け入れられるでしょうが、どこの国でも同じというわけにはいきません。たとえば、米国のベビーブーム世代が良い例です。この世代の人々は、自分たちにふさわしい商品展開を好む傾向がますます強くなっています。ところが、自分たちの年齢層を対象にした特別扱いには納得しません。Facebookで私とつながっている年配の友人は以前、赤ちゃん用のおむつの商品名が「Pampers(大切に育てる)」や「Huggies(抱きしめる)」なのに、どうして大人用は「Depend(頼る)」なんだと憤慨していました。
老いることの意味自体が、すでに一定のものではなくなっているのです。明日の高齢者世代は、今とはさらに大きく変わっているかもしれません。企業各社は、そのことを認識したうえで、ニーズに応えていく必要があります。
高齢化にもさまざまな様相
他の年齢層にも言えることですが、高齢者世代にも多様性があります。
マッキンゼー社のレポートによると、フランスでは60歳以上の世代の可処分所得が40歳~50歳代に比べて20~30%少ないものの、その人口は40~50歳代の2倍から3倍の速さで増加しているといいます。これはフランスだけではなく、西ヨーロッパ全体で見られる傾向です。
日本と韓国では、国内での消費拡大のうち、実に40%を75歳以上の世代が担っているものと見られています。一方、西ヨーロッパや米国で急速な消費拡大を支えているのは、60歳から75歳に差しかかったベビーブーム世代です。
高齢者の消費パターンも、世界中どこでも同じではないということです。北東アジア諸国では、年長者が若年層にお金をふんだんにつぎ込むという伝統がありますが、欧米のベビーブーム世代に比べれば、はるかに消費パターンが質素であるという傾向もあります。
適応が求められるのはヘルスケア業界だけではない
顧客の高齢化への適応を最も急ぐ必要があるのは、やはりヘルスケア業界ですが、ユーロモニター社のレポートによれば、テクノロジー業界でもこの年齢層に対する配慮をさらに進める必要があるといいます。「ミレニアル世代には熱狂的に歓迎されたウェアラブル製品も、(中略)高齢の消費者となると事情が異なります。ウェアラブル機器をコンピューターと同期するのが難しいとか、取扱説明書がわかりにくいといった声も聞かれます」。
同じように、他の多くの業界でも、高齢者にとってさらに魅力的な製品やサービスを提供するために、どんな見直しを進められるのか、考えるときが迫っていると言えます。
オンライン行動の変化にも備えを
今では、高齢者世代もインターネットを使うようになっていますが、そのきっかけは、ほとんどがFacebookなどのソーシャルメディアか、WhatsAppのようなメッセンジャーアプリで、ウェブの使い方はまだまだ限られています。ウェブの活用が広がる可能性は十分にありますが、その可能性を広げる一番の近道は、ローカライズされたコンテンツを増やすことでしょう。高齢者ほど、外国語ではなく母語でページを読みたがる傾向が強いからです。
先進国でも発展途上国でも、高齢者層に役立つビジネスには、イノベーションだけではなく相応の繊細さが求められます。高齢者層のニーズという点では共通点もありますが、高齢者のための製品やサービスを展開するには、地域の事情と消費者嗜好への十分な配慮が不可欠です。
[編集メモ:この記事は、2017年3月に投稿した内容に加筆・訂正したものです。ヴィジャヤラクシュミ・へグデによる元の記事はこちらからご覧いただけます。] [編集: MLS] [o/o-i]