デジタルファイルにさよならのキスを
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デジタルファイルにさよならのキスを

デジタルファイルにさよならのキスを

デジタルファイルにさよならのキスを

私たちの生活をすっかりデジタル化するのに貢献してきたデジタルファイル。紙の書類が当たり前だった世代もコンピューターを使いこなすようになり、「デジタルネイティブ」と呼ばれる世代が台頭してきた今、その役割は終わりに近づいているのかもしれません。これからのコンテンツ管理に、「ファイル」という概念は必要なのでしょうか?今回の記事は、限界を迎えつつあるデジタルファイルが、もはや恩恵というよりは重荷になっているのではないかという、そんなお話です。

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イノベーションは、メタファーから始まる

メタファー(隠喩)は、常にイノベーションを力強く後押ししてきました。「家の電話(既存のテクノロジー)を持ち歩く(応用)」といった発想はイノベーションのきっかけとなり、すでにある解決策(トランシーバーなど)からヒントを得ようとすることは、設計プロセスにも大きな影響を及ぼします。

古い世界から新しい世界へと移り変わろうとするとき、出入口の役割を果たすのがメタファーです。これにより、認知的不協和に悩まされることがなくなります。つまり、目新しいものがあまりに異質で脳が処理しきれないとき、メタファーを使って既知の何かと関連付けることで、慣れ親しんだ世界観の中でストレスなく未知のものを分類できるようになるのです。

「これは食べられるものなのか。それとも、私を食べようとするものなのか」

ソフトウェアに現実世界のものと同じ外観や操作感を与え、自然さを追求しようとするスキューモーフィズムという設計技法の概念の根底には、この問いが常にあります。電子書籍リーダーの「ページめくり」効果は紙の本を、デジタル時計の針はアナログ時計を模しています。電子機器での作曲に親しむ方は、クロムめっきの回転つまみや木目調がほどこされた電子楽器を思い浮かべるかもしれません。

こうしたものはすべて、メタファーの応用です。適切なとき、適切な場面、適切な目的に従って用いられてこそ、メタファーは威力を発揮します。しかし、すべてが当たり前、見慣れぬものなど何もない社会では、未知への不安を和らげるメタファーもその役目を終えることでしょう。

オフィス環境のメタファーが業務を変えた

コンピューティング技術は、間違いなく革命的な概念でした。パーソナルコンピューターが幅広く流通し、利用されるようになったことは驚くに値しませんし、そこに多くのメタファー、特に実際のオフィスに関連するメタファーが用いられたのも当然のことでした。デスクトップ(机の上)、メール(郵便)、フォルダー(書類入れ)、ごみ箱といった用語が取り入れられ、どこからでも開いて見ることができるドキュメント(書類)はファイルと呼ばれるようになりました。

現実世界における「ファイル」は、きわめて有用です。ほかとは明確に区切られたコンテンツや情報の入れ物として、何回でも開くことができ、複製、保存、移動はもちろんのこと、ペンなどで印を付けたり整理したり、人と共有することもできます。不要になったら、シュレッダーなどで破棄することも可能です。

私たちはデジタルコンテンツでも、こうした使い勝手がすべて再現されることを期待しました。紙よりもはるかに高速・大量に処理できるデジタルデータを使いたくない理由など、見つかるわけがありません。

メタファーの暗黒面

論文「On the Cruelty of Really Teaching Computer Science(コンピューターサイエンスを真の意味で指導することの残酷さについて)」の中で、エドガー・ダイクストラ氏は、コンピューターサイエンス上の概念に現実世界のメタファーを当てはめることの問題点を、こう指摘しています。

「……我々は『共通感覚』という言葉でそれを美化することもあるが、過去の経験はもはや通用しないし、アナロジー(類推)は薄っぺらいものになってしまう。メタファーは、理解の助けになるより、誤解を生むことのほうが多い」

アナロジーは、「これまでなかった新しさ」に正しくない特性を重ねてしまうおそれがあるだけでなく、その真の可能性を否定することにもなりかねない、とダイクストラ氏は主張しているのです。

ダイクストラ氏のレンズを通して世界を見渡してみれば、限界を迎えたメタファーの例は簡単に見つかるはずです。メタファーによって強化されるはずが無用な制限を生み出し、ユーザーのほうがメタファーに合わせるという逆転現象すら起きていることもあります。

手元のスマートフォンを見れば、以前なら当たり前と考えられていたオフィスのメタファーが、なくなっていることに気付くでしょう。スマートフォンに、PCのようなデスクトップやごみ箱があっても便利にはなりませんし、ファイルをフォルダーに整理して並べておいても効率は上がりません。こうしたメタファーは、単にスマートフォンにできることを否定するだけの存在になってしまうのです。

ファイルの長所が短所に

デジタルファイルは、情報管理のために応用されたメタファーですが、今では無用な足かせになっています。新しい情報技術が登場するようになると、現実世界で長所だった特性が、デジタル世界では短所になるからです。

「ほかとは明確に区切られたコンテンツや情報の入れ物」であることの問題

動的であることが求められる世界において、ファイルに記録された情報は静的なままです。

たとえば、レポートがあるとします。そこにない情報が新たに必要になったら、新しいレポートを生成しなければなりません。レポートファイルは、ある時点の状態を切り取ったものでしかないため、目に触れる頃にはもう古くなっているのです。

これに対して、ファイルという入れ物に頼らず、データベースからリアルタイムのデータをオンデマンドで引き出すシステムなら、そのとき必要な最新の情報を簡単に手に入れることができます。

持ち運べることの問題

複数のシステムが連携して情報をやりとりできるようになると、ファイルを外に持ち出す必要はなくなります。紙であれデジタルであれ、ファイルを外に持ち出せば、壊す、失くすといったリスクは完全には避けられません。なにより、持ち出した時点で最新情報と同期しなくなるという問題があります。

また、このように人間自身がファイルを管理する限り、ファイルの安全な置き場所を確保し、常に情報を探せるようにしておかなければならないのです(スマートフォンの例で挙げた、「ファイルをフォルダーに整理して並べておいても効率は上がらない」問題)。

情報がシステム内のどこにあっても簡単に取得できる高度な検索アルゴリズムと比べると、(紙であれデジタルであれ)ファイルを人力で管理しなければならないこのやり方は、まさに本末転倒。紙のファイルのメタファーを引きずり、それに縛られているという状況です。

プロセスのムダ

企業間ビジネスの慣習として、異なるシステム間で、またはプロセス内の工程間で、情報をやりとりするための交換形式としてファイルを使うことがあります。ローカリゼーションも、もちろん例外ではありません。

しかし、プロセス全体の効率という点で、情報交換の手段としてファイルを使用するというのは、いくつものムダを生み出します。たとえば、次のような手順や工程が生じます。

  • ファイル形式を変換する
  • ファイル形式を変換したとき、不具合が生じていないかを確認する
  • ファイルの受け渡し、バージョン管理、ファイルの分割などを行う

あっという間に、付加価値につながらないコストが積み上がっていくわけです。

ファイルに代わるもの

グローバリゼーションのためのソリューション開発においても、コンテンツをファイル形式で処理するという手順は当たり前に行われています。ある程度コストがかかることも織り込み済み。しかし、そんな状況が変わりつつあります。

現在のソリューション設計では、「そのファイルは本当に必要か?作成と管理に、コストはどのくらいかかるのか?」と問いかけるところから始めます。

ファイルという形でコンテンツをプロセスに組み込むのではなく、ウェブサービスやブラウザー拡張機能などを利用してプロセスをコンテンツに寄せていく方法を検討するのです。そうすることで、コンテンツはその作成や流通の過程において、コストや時間ばかりかかる無駄な寄り道をしなくて済むようになります。

この流れはローカリゼーションにおいてもトレンドとなりつつあるようです。

XLIFF-OMOS は、XLIFF(ローカライズ可能なデータをローカリゼーションシステムで処理する際の標準形式)を、ファイルが不要なしくみの中で有効に活用することを目指しているプロジェクトです。

「(このプロジェクトの)最優先事項は、XLIFF 2を公開し、XMLパイプライン外でも使えるようにして、リアルタイムのクラウドサービスに対応させることです」

XLIFF-OMOSに、熱い視線が注がれています。

みなさんのご意見は?

デジタルファイルが恩恵となるか重荷となるか、あるいはまったく別の視点で捉えるべきものになるのかは、業種や目的によっても異なるはずです。

転換期を迎えている今、あらためて考えてみてはいかがでしょう。


 [編集メモ:この記事は、2017年5月に投稿した内容に加筆・訂正したものです。ジム・コンプトン による元の記事はこちらからご覧いただけます。] [編集: MLS] [o/i]

 

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