ロボットライターは機械翻訳の夢に追いつけるか

ロボットライターは機械翻訳の夢に追いつけるか

ロボットライターは機械翻訳の夢に追いつけるか

Persado社が人工知能(AI)にもとづくコピーライティングソフトウェアに3,000万ドルの資金を調達したことが話題になりました。このニュースをきっかけに、文章作成に人の手が要らなくなるのではという議論が活発になっているようです。しかし、この分野においてPersadoは先駆者というわけではありません。Narrative Science社のQuillは、2010年からデータをもとに記事を作成するサービスを提供していますし、ロサンゼルス・タイムズ紙の地震速報がQuakebotというアルゴリズムで自動生成されていることはよく知られています。

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こうした既存のテクノロジーと比較すると、Persadoのアプリケーションはきわめてニッチであると言えます。自然言語処理と機械学習アルゴリズムを組み合わせ、ディスプレイ広告、メールの件名、ランディングページのタイトル、SMS、プッシュ通知など、すべてが600文字以内で構成される文章に利用される「コグニティブコンテンツ」(ターゲットのエンゲージメントにつながるコンテンツ)を生成するというものです。

このツールは、現状では人間の手による文章作成を脅かすにはほど遠いものですが、Persadoを取り巻く議論には、何か既視感のようなものを感じます。

機械翻訳(MT)のはじまりは50年以上前にまでさかのぼりますが、機械が人間に取って代わるのではないかという動揺を、いまだ翻訳者に与え続けています。端的にいうと、この質問に対する答えは「ノー」なのですが、それでもなお不安はぬぐえません。

Moraviaのビジネスは、ことばとテクノロジーです。ここで勤める私にとって、AIによるコンテンツ作成とMTの興味深い共通点は、「機械が人間に取って代わる(あるいは取って代わろうとしている)のか?」ということだけではありません。

 

1. AIによるコンテンツにはMT同様、スポットライトがあたる場所があるということ

現在、AIとは無縁だと言いきれる業界はあるのでしょうか?ある言語から別の言語への翻訳をこなす機械がすでに存在するなか、ロボットがコンテンツ作成をするというのも何の不思議もない、当たり前の流れなのかもしれません。MTでは、言語の組み合わせや分野、さらには翻訳エンジンがどれだけ学習しているかによって正確さに差が出ますが、MTが今後も活用されるであろうことは間違いないでしょう。

MTは人の手に余る仕事を得意とします。たとえば、リアルタイム翻訳です。膨大な量のコンテンツをわずかな時間で翻訳しなければならない場合、人海戦術にも限りがあります。そんなときは、MTの出番です。

同じように、コンテンツを作り出すコンピューターにもスポットライトがあたるときはやってくるのでしょうか?私は、十分に可能性はあると思っています。アプリの通知や短い広告コピーなどは、必ずしも人間のクリエイティビティを要するものばかりではありません。マーケティングメッセージに求められる規模やスピードの課題を解決するのに、Persadoをはじめとするソフトウェアが役立つこともあるでしょう。とはいえ、その影響範囲は限られたものであり、Google翻訳ほどの社会全体への影響力を持つに至るものではありません。

 

2. 地道な努力のうえに成り立つということ

機械は何もないところから新しいコピーを作ったり、それを翻訳したりすることはできません。機械は人から学ばなければならず、MTに学習させるには、翻訳された膨大な量のコンテンツコーパスが必要です。Google翻訳やBing翻訳といった無料の機械翻訳エンジンも、翻訳に対するフィードバックを利用者に求め、クラウドソーシングによる学習や品質確認を行っています。

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Google翻訳コミュニティ (https://translate.google.com/community)

Persadoも同じです。コンバージョンを最大化するマーケティングメッセージを作成するには、何百万回という計算と置換を実行しなければならず、そのためには膨大なデータのコーパスをツールに読み込ませる必要があります。そしてご想像のとおり、こうしたデータやコンテンツは本来人間が生み出したものであり、人が機械に渡さなければ何も始まらないのです。

 

3. 多大な費用がかかるということ

MTを採用する主な理由は、コストと時間の削減でしょう。しかし、MT自体は決して「安上がり」なソリューションではありません。無料のMTエンジンを使い品質を度外視すれば、「安い」「早い」は実現するでしょうが、果たしてそれが本当に求めているものでしょうか?MTのアウトプットを、十分に理解できて深刻な間違いがないものにするには、前述のとおり「学習」させることと、ある程度の人の手による事後編集(ポストエディット)が必要になります。

Persadoを導入するのにどれだけの費用がかかるのかははっきりしていませんが、現状ではPersadoを導入しているのは大手企業のみであることから、それなりの額であろうと予想されます。

 

4. ソースが壊滅的ならターゲットも壊滅的になるということ

Persadoはコピーライティングだけでなく、23言語への翻訳も行います。Persadoがコンテンツを翻訳するアルゴリズムは明かされていませんが、MTであることは容易に想像できます。ローカリ業界の人であれば、このあたりでムズムズしてくるのではないでしょうか。翻訳で大切なのはクリーンソース。つまり、原文となるコンテンツの品質はそのまま翻訳の品質に反映されるので、原文の段階で問題をつぶしておくのが肝心ということです。

原文となるコンテンツが機械によって作り出されるのだとしたら、そこに不整合やエラーがあることは想像に難くありません。いずれかの段階で人の手による修正が入らない限り、こうした問題がソースに残ったまま、翻訳される複数の言語に伝播していくことになります。機械により自動生成されるコンテンツをそのまま翻訳するのは、いささか時期尚早と思われます。

 

5. 対象が限定されるということ

これは共通点ではなく、PersadoのようなテクノロジーがMTとは異なる点です。MTの使い道は誰もが思いつくでしょう。たとえば、海外旅行でコミュニケーションを図る、または外国語のウェブサイトで調べ物をするなどの用途が考えられます。その意味でMTは万人向けのテクノロジーであり、また、大衆の協力により大きく飛躍したものでもあります。

一方、Persadoにはこれは当てはまりません。少なくとも現状でこのツールに関心を示しているのは企業、それも大企業のみです。クラウドソーシング的に多くの人の協力を得て発展させられるということもないでしょう。

これは、AIによるコンテンツの展開を阻む最大の壁となり得ます。ただし、巨大企業がこのテクノロジーを広く一般に利用できるようにする気があれば(投資するつもりがあれば)、この壁を乗り越えることもできるかもしれません。今後の動向から目が離せませんね。

 

[ヴィジャヤラクシュミ・へグデ による原文へ] [編集: MLS] [o/o-i]

 

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