翻訳という職業に、未来はあるのか
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翻訳という職業に、未来はあるのか

翻訳という職業に、未来はあるのか

The End of Translation as We Know It?

翻訳者は、自らの仕事に誇りを持っているものです。対象言語の深い知識に加え、その国や地域の文化、政治状況、トレンドにも明るく、読み手にあわせた伝え方も心得ています。たとえば、相手がその技術の開発者なのか、それとも初めて触るユーザーなのか、あるいは対象ユーザーの年齢によっても、選ぶべき言葉やトーンは違ってきます。しかしながら、ニューラル機械翻訳(NMT)への期待が盛り上がり、常にコスト削減、納期短縮のプレッシャーに晒されるなか、こうした高いスキルを持つ昔ながらの翻訳者という職業は、消えていく運命にあるのでしょうか?

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世の中は変化している

消えていかないように、翻訳者も変わっていく必要があります。多様なメディアやプラットフォームが登場し、さまざまなチャネルでコミュニケーションが行われるようになった今、多種多様なコンテンツが翻訳の対象となっています。メソッドや、求められるスピードもさまざまです。Webサイトのコンテンツには、ソフトウェアUIとは異なるアプローチが必要ですし、短期間で消費されるコンテンツに長々と時間をかけるわけにはいきません。GALA(Globalization and Localization Association)のプレゼン「Continuous Delivery in Localization—Achievable Reality?」でも、ローカリゼーションの「継続的デリバリー」について論じられました。

翻訳テクノロジー業界も、同じように大きな変化に直面しています。機械翻訳(MT)は、ニューラルネットワークを取り入れることで大幅に強化されました。NMTで翻訳されるコンテンツの精度は格段に向上し、単純な単語のエラーをつぶすだけで十分に実用に足るレベルになってきています(詳細は、ポッドキャスト「The Challenge of Neural MT: Part 3」をお聞きください)。翻訳支援ツールの分野では、MTと過去の翻訳データや用語集、Liltなどのユーザー入力予測を組み合わせることで効率化を図ろうとしています。音声認識の機能を持つツールまであります。こうした機能は生産性向上に大きく寄与する反面、翻訳者には、これまでとはまったく異なる期待がのしかかることになります。

翻訳者の未来はどこに

翻訳者の役割は、今後さらに細分化が進むことになりそうです。大量短納期のニーズに応えるMTPE(機械翻訳後のポストエディット)が注目されていますが、MTのアウトプットを整えるポストエディットは、どんな翻訳者にもできるというものではありません。人の手による翻訳を編集する場合とは異なるプロセスやスキルを要するもので、ルールベースか統計的か、ニューラルか、あるいは翻訳メモリとの組み合わせかなど、使用するMTソリューションごとのさまざまなクセを理解して対応する必要があります(詳細は、NMTに関する当社のポッドキャストシリーズをご覧ください)。

読みやすさといった言語面のクオリティよりも、適切な用語が使われているかといった技術面の正確さが重視される分野にMTPEソリューションは適しています。その意味でポストエディットは、翻訳者ではなくその分野に精通したエキスパート(SME:Subject Matter Expert)によって行われるのが筋でしょう。SMEは言語のスペシャリストである必要はありません。原文にとらわれず、MTアウトプットを技術的な正確さの観点からのみチェックして修正します(このテーマに関する研究は こちらを、MTとMTPEを取り入れている企業の実例はこちらをご覧ください。)

ヒトにしかできないことを

断言しましょう。今後も言語専門職の需要がなくなることはありません。医薬品・医療機器の提出資料や法律文書の翻訳、文芸作品の翻訳など、高い言語能力と同時に専門知識や特殊技能が求められるものがまだまだたくさんあります。経験豊富なベテラン翻訳者にとって、MTは役に立たないどころか邪魔になることの方が多いようです。

では、マーケティング翻訳やトランスクリエーションはどうでしょう?この分野の翻訳者にまず求められるのは、ターゲット市場に「いる」ことです。マーケティングや広告のメッセージが伝わる言葉を選べること、ターゲット市場を肌で感じられる環境にいて、何が人々の心を捉えているのかをキャッチできることが必須になります。オリジナルと同じ効果を上げるコンテンツを作るには、ターゲット市場でオーディエンスに「ささる」言葉を使えているかがカギとなるのです。

コスト削減のプレッシャーが高まり続けるなか、人の手による翻訳を低価格に抑える方法として注目を浴びているのがクラウドソーシングです。「非現実的だ」、「クオリティに期待できない」と却下する前に、ちょっとだけ考えてみましょう。賞味期限の短いコンテンツで、読み手が文章そのもののクオリティに頓着しないという条件であれば、決して悪手とは言い切れないのでは?

翻訳に求められるものが多様化するなか、翻訳者の役割そのものを見直すときがきています。今の強みに磨きをかけるもよし。新たな目的やプロセスに応じたスキルを柔軟に取り入れるもよし。いずれにせよ、目まぐるしく変わる世の中で取り残されないように、ご注意を。


 [編集メモ:この記事は、2017年3月に投稿した内容に加筆・訂正したものです。ヤン・グロデキーよる元の記事はこちらからご覧いただけます。] [編集: MLS] [o/o-i]

 

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